正常価格
市場性を有する不動産について合理的な自由市場があったならば、その市場で成立するであろう適正な価格を言います。売り手も買い手もも満足できる価格ですね。しかし現実の不動産市場はきわめて閉鎖的で、良い情報は隠されてしまいますし、売り手も買い手も複雑多岐にわたる特別な動機を持ちがちです。このため実際の取引価格は合理的でないことがよく起こります。
価格時点
不動産の価格は「不動」ではなくて、上がったり下がったりしますね。このことはバブル崩壊後よくわかりました。このため不動産の鑑定評価をする場合には、価格の決定の基準とすべき日を確定しておく必要があります。この日のことを「価格時点」と呼んでいます。
最有効使用
不動産の価格は、その不動産の公用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(最有効使用)を前提として把握される価格を標準として形成されます。例えば10階建ての建物が建てられるところには2階建て専用住宅を前提とした価格にはなりません。もちろんこの場合の最有効使用は客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法を言います。
評価の三方式
私たちが財の価格を考えるとき、一般にその財はどのくらいの価格で取り引きされているのか、その財を利用することによってどのくらいの収入を得ることができるのか、その財を作るのにどのくらいの費用が投下されたのかを考えます。不動産鑑定評価基準はこれらの考え方を3つの評価方式にまとめ、具体的な適用方法についての考え方を示しています。これを不動産の価格を求める場合と、賃料を求める場合に分けて表にしますと次のようになります。
方式 | 価格の場合 | 賃料の場合 |
---|---|---|
比較方式 | 取引事例比較法 | 賃貸事例比較法 |
収益方式 | 収益還元法 | 収益分析法 |
原価方式 | 原価法 | 積算法 |
更地と建付地
建物の敷地となるような土地を宅地と言いますが、宅地のうち建物がない状態の土地を「更地」といい、自己所有土地上に建物がある状態を「建付地」といいます。なお、更地とは外の権利が付着している土地、例えば借地権が設定されている土地などは空き地でも更地とは言いません。この場合は「底地」となってしまいます。所有者がいつでも自由に使用収益できる宅地を更地と言います。
宅地見込地
現況は農地や山林などでも、近い将来宅地に転換すると見込まれている場合に、その宅地の素地となる土地を宅地見込地と言います。宅地見込地は近い将来宅地化することが比較的高い蓋然性を持って予測されなくてはなりませんから、ある程度の認定できる条件がなければなりません。
新規地代(家賃)
新たに土地を貸す場合の地代を「新規地代」といい、いわゆる「継続地代」と区別しています。 新規地代の適正額は一般の経済原則、つまり需要と供給の原則によって定まることになります。 この場合の適正な地代は近隣の新規地代との比較もありますが、当該宅地の経済価値に即応した額に必要諸経費を加算したものが重要な目安になります。
継続地代(家賃)
鑑定評価基準では、「同一使用目的において継続中の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料」となっています。これは、賃料増減請求に係わる場合に用いられる概念です。この場合の適正地代を求める方法は実務上、差額分配法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等があります。
対象不動産の確定
不動産の価格を求める場合、まずなにを評価するのか明確にしなければなりません。そこで、対象不動産を確定する、所在範囲等の対象確定条件の外、依頼内容に応じて付加される条件があります。
この「付加条件」には次のようなものがあります。
独立鑑定評価 | 不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合、その構成部分である土地あるいは建物のみを独立のものとして評価すること。 |
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部分鑑定評価 | 不動産が土地及び建物の結合により構成されている場合、その状態を所与としてその構成部分である土地あるいは建物の鑑定評価の対象とすること。 |
併合・分割を前提 とする鑑定評価 |
不動産の併合または分割後の不動産を単独のものとして鑑定評価の対象とすることを言います。 |
評価の目的
不動産の評価は様々な目的によってなされます。どのような評価の目的でなされるのかにより価格が異なる場合もあります。したがって評価に先立って何のための評価か、目的をはっきりさせておかなければなりません。
売買・売受 | 不動産は個別性が強いので、真実の価値は容易に把握できません。したがって、売買当事者は自分サイドの価格を主張しがちです。この場合、客観的な評価をすることが重要です。 |
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交換 | 税法上の課税繰延べの特例を受けられるかどうかの判断 資料、交換差金の判断資料等として評価が重要です。 |
補償 | 公共用地の取得に伴う損失補償額の算定に当たって評価が必要です。 |
競売・公売 | 裁判所の競売、国公有地、税務署の公売には、最低入札価格の判断材料として評価が必要です。 |
資産評価 | 企業経営上の資産の再評価、資産管理運営上の参考資料として評価することがあります。 |
担保評価・ 不動産証券化 |
金融機関の融資額決定の判断資料として、不動産証券化基礎資料として評価が行われます。 |
裁判 | 多くの不動産に関する訴訟の中で、不動産の価格をめぐる争いは相当な割合になっています。この場合裁判所の判断資料として評価が必要になります。 |
企業の時価会計 | 企業会計において販売用不動産の強制評価減や減損会計など時価評価が必要な流れになってきました。このような場合、鑑定評価の割合が大きくなってきました。 |
相続 | 相続財産の分割のためや遺留分減債請求の基礎資料として評価が必要です。 |
賃貸借 | 借地借家における新規の地代・家賃や継続賃料を求めるに当たって、評価が必要とされます。 |
その他 | 法人の現物出資、立ち退き料、国及び地方公共団体の課税のためなどに評価が行われています。 |
鑑定評価の条件
鑑定評価の条件の設定は、依頼日的に応じて対象不動産の内容を確定し(対象確定条件)、または付加する地域要因もしくは個別的要因についての想定上の条件を明確にするものであり、鑑定評価の妥当する範囲、および鑑定評価を行った不動産鑑定士の責任の範囲を示すものです。
特定価格
特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいいます。
特定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりです。
- ①資産の流動化に関する法律または投資信託及び投資法人に関する法律にもとづく評価目的の下で・投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
- ②民事再生法にもとづく評価目的の下で、早期売却を前掟とした価格を求める場合
- ③会社更生法または民事再生法にもとづく評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合
特殊価格
特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいいます。
次のような不動産について、その保存等に主眼をおいた鑑定評価を行う場合に、特殊価格を求めます。
- ①文化財の指定を受けた建造物
- ②宗教建築物
- ③現況による管理を継続する公共公益施設
鑑定評価上の不明事項
対象不動産の確認、資料の検討および価格形成要因の分析等、鑑定評価の手順の各段階において、資料収集の限界、資料の不備等によって明らかにすることができない事項が存する場合には、評価上の取扱いを明示する必要があります。 その際、不動産鑑定士が自ら行った調査の範囲および内容を明確にするとともに、他の専門家が行った調査結果等を活用した場合においては、当該専門家が調査した範囲および内容を明確にしなければなりません。