不動産鑑定評価書とは
鑑定評価書は・不動産の鑑定評価に関する法律第39条にもとづいて、不動産鑑定業者が依頼者に対して交付する文書であり、不動産鑑定士が作成します。そして、鑑定評価書には、下記に述べる事項を記載します。なお、その鑑定評価に関与した不動産鑑定士は、鑑定評価を行った年月日および資格を表示して、署名捺印をします。
対象不動産
鑑定評価の対象となった不動産を確定し、表示します。
○土 地−所在、地番、種別(地目)、面積
○建 物一所在、家屋番号、構造、用途、床面積、附属建物等
対象となった権利
不動産の価格とは、その不動産に関する所有権、貸借権等の権利の対価または経済的利益の対価をいいます。そして、二つ以上の権利・利益が一つの不動産の上にある場合には、それぞれの権利・利益について、その価格が形成されます。したがって、鑑定評価の対象となった権利を確定し、必ず表示します。
鑑定評価額
不動産鑑定士は、鑑定評価の手順を十分に尽くした後、専門職業家としての良心に従って、適正と判断される鑑定評価額を決定し、表示します。なお、正常価格を求めることができる不動産について、依頼目的および条件により限定価格または特定価格を求めた場合は、かっこ書きで正常価格である旨を付記して正常価格を併記します。
価格時点
不動産の価格は、時の経過により変動します。したがって、鑑定評価にあたっては、価格判定の基準日を確定する必要があり、この日を価格時点といいます。価格時点は、鑑定評価を行った日を基準として、現在の場合(現在時点)のほか、過去の場合(過去時点)および将来の場合(将来時点)に分けられます。
(1)過去時点
過去時点の鑑定評価は、対象不動産の確認が可能であり、かつ、鑑定評価に必要な要因資料および事例資料の収集が可能な場合に限り行うことができます。また、時の経過により、対象不動産およびその近隣地域等が、価格時点から鑑定評価を行う時点までの間に変化している場合もあります。このような場合の価格時点における対象不動産の確認等については、価格時点に近い時点の確認資料をできる限り収集し、それにもとづいて判断します。
(2)将来時点
将来時点の鑑定評価は、対象不動産の確定、価格形成要因の把握および分析ならびに最有効使用の判定について、すべて想定または予測することになります。また、収集する資料についても、鑑定評価を行う時点までのものに限られ、不確実にならざるをえませんので、原則として、このような鑑定評価を行うことができません。ただし、特に必要がある場合において、鑑定評価上妥当性を欠くことがないと認められるときは、将来時点の鑑定評価を行うことができます。
依頼目的
定評価の依頼目的を例示すると、次のとおりです。
① 売買の参考鑑
② 交換の参考
③ 相続財産の評価
④ 担保評価
⑤ 資産評価
⑥ 共同ビルの権利調整
⑦ 借地人による底地の買収
⑧ 隣接地の買収
⑨ 資産の流動化に関する法律にもとづく投資採算価値の評価
⑲ 民事再生法にもとづく早期売却を前渡しとした評価
⑪ 会社更生法にもとづく事業の継続を前提とした評価
これらの依頼目的は、鑑定評価の条件とともに、鑑定評価によって求める価格の種類を確定することとなります。
鑑定評価の条件
鑑定評価の条件の設定は、依頼目的に応じて対象不動産の内容を確定し(対象確定条件)、または付加する地域要因もしくは個別的要因についての想定上の条件を明確にするものであり、鑑定評価の妥当する範囲、および鑑定評価を行った不動産鑑定士の責任の範囲を示すものです。
(1)対象確定条件
対象確定条件は、対象不動産の所在、範囲等の物的事項、および所有権、貸借権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要なものです。
依頼内容に応じて対象不動産を確定する条件としては、次のものがあげられます。
① 現状を所与とする鑑定評価
不動産が土地のみの場合、または土地および建物等により構成されている場合に、その状態を所与として、鑑定評価の対象とすることです。
② 独立鑑定評価
不動産が土地および建物等により構成されている場合に、その土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)として、鑑定評価の対象とすることです。
③ 部分鑑定評価
不動産が土地および建物等により構成されている場合に、その状態を所与として、その不動産の構成部分である土地または建物を鑑定評価の対象とすることです。
④ 併合鑑定評価
不動産の併合を前捷とし、併合後の不動産を単独のものとして、鑑定評価の対象とすることです。
⑤ 分割鑑定評価
不動産の分割を前提とし、分割後の不動産を単独のものとして、鑑定評価の対象とすることです。
(2)想定上の条件
地域要因または個別的要因について想定上の条件を付加することがあります。この場合には、依頼により付加する想定上の条件が実現性、合法性、関係当事者および第三者の利益を害するおそれがないか等の観点から妥当なものでなければなりません。
① 地域要因
一般に、地域要因について想定上の条件を付加することが妥当と認められる場合は、計画および諸規制の変更・改廃に権能を持つ公的機関が設定する事項に限られます。
〔例〕・用途地域が住居地域から商業地域へ変更されるものとする。
・容積率が200%から400%に変更されるものとする。
② 個別的要因
〔例〕・前面道路が4mから6mに拡幅されるものとする。
・ 標準的な画地として評価する。
価格の種類
不動産の鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格です。ただし、鑑定評価の依頼目的および条件に応じて限定価格、特定価格または特殊価格を求める場合がありますので、依頼目的および条件に即して価格の種類を適切に判断し、理由を明確にする必要があります。
(1)正常価格
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいいます。 この場合の市場とは、次の条件を満たす市場をいいます。
① 市場参加者が自由意志に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であること
なお、市場参加者は、自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすとともに、慎重かつ賢明に予測し、行動するものとします。・売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないこと・対象不動産および対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通常の知識や情報を得ていること・取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること・対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと・買主が通常の資金調達能力を有していること
② 市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような特別な取引形態ではないこと
③ 対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。
したがって、正常価格は一般の取引当事者にとって妥当する価格であり、鑑定評価では、原則として、この正常価格を求めます。
(2)限定価格
限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合、または不動産の一部を取得する際の分割等にもとづき、正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乗離することにより市場が相対的に限定される場合における、取得部分のその市場限定にもとづく市場価値を適正に表示する価格をいいます。したがって、限定価格は、市場限定下における特定の当事者間においてのみ経済合理性が認められる価格です。限定価格を求めることができる場合を例示すれば、次のとおりです。
① 借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合
この場合には、借地権の存する土地が完全所有権に復帰することとなり、従来の借地契約上の制限がなくなることから、その土地に増分価値が生ずるので、買手である借地権者にとって、底地を正常価格より高い価格で買っても経済合理性が認められます。
② 隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合
ある土地と隣凄地を併合した場合に、形状、規模、接道等が良くなることにより、併合後の一体地の正常価格が、併合前のそれぞれの土地の正常価格を合算した価額より高くなるときは、その隣接地を併合することで増分価値が生ずるので、その土地所有者にとっては、隣接地を正常価格より高い価格で買っても経済合理性が認められます。
③ 経済合理性に反する不動産の分割を前線とする売買に関連する場合
ある土地の一部を分割した場合には、残地の利用効率が低下し、減価することがあります。
このような場合には、その土地の所有者は、残地の減価分の補償を受けないかぎり、その土地の一部を分割して譲渡しようとはしません。
したがって、分割後の土地を取得しようとする者は、残地の減価分の補償を上乗せした価格で取得せざるをえません。
(3)特定価格
特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいいます。特定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりです。
① 資産の流動化に関する法律または投資信託及び投資法人に関する法律にもとづく評価目的の下で・投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
② 民事再生法にもとづく評価目的の下で、早期売却を前掟とした価格を求める場合
③ 会社更生法または民事再生法にもとづく評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合
(4)特殊価格
特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいいます。
次のような不動産について、その保存等に主眼をおいた鑑定評価を行う場合に、特殊価格を求めます。
① 文化財の指定を受けた建造物
② 宗教建築物
③ 現況による管理を継続する公共公益施設
縁故または利害関係の有無
その不動産の鑑定評価に関与した不動産鑑定士の対象不動産に関する利害関係、または対象不動産に関して利害関係を有する者との縁故もしくは特別の利害関係を有する場合等、公平な鑑定評価を害する恐れがあるときは、原則として鑑定評価を引き受けてはならないとされています。しかし、これは倫理的要請であり、法律上禁止しているわけではなく、縁故または利害関係の有無およびその内容を明示させることにより、不動産鑑定士がいかなる場合でも、公平妥当な態度を保持することを期待し、かつ第三者に不測の損害を与えることを防止しているのです。
鑑定評価額の決定の理由
・対象不動産の確認
対象不動産の確認とは、依頼者との間で観念的に確定された対象不動産について、現実にそのとおり存在しているかどうかを不動産鑑定士が確認することであり、物的確認と権利の態様の確認に分けられます。これは適正な鑑定評価の前提となるもので、実地調査、聴聞、公的資料の確認等によって的確に行う必要があり、後日対象不動産の現況把握に疑義が生ずる場合があることを考慮して、実際に現地に行き対象不動産の現況を確認した年月日(実査日)を、鑑定評価書に記載しなければなりません。
(1)物的確認
対象不動産の物的確認にあたっては、土地についてはその所在、地番、種別(地目)、面積、形状、境界等を、建物等についてはその所在、家屋番号、構造、用途、床面積等を、それぞれ実地に確認することを通じて、対象不動産の存否およびその内容を確認資料を用いて照合します。
(2)権利の態様の確認
権利の態様の確認にあたっては、物的に確認された対象不動産について、その不動産に係るすべての権利関係を明瞭に確認することにより、鑑定評価の対象となる権利の存否およびその内容を、確認資料を用いて照合します。
・地域の状況
不動産は通常、他の不動産とともに、用途的に同質性を有する一定の地域(用途的地域)を構成して、これに属しています。地域は、その規模、構成の内容、機能等にわたって、それぞれ他の地域と区別されるべき特性を有しています。そして、その特性は、その地域内の不動産の利用形態と価格形成について、全般的な影響力を持っています。対象不動産がどのような地域に存するか、その地域はどのような特性を有するか、また対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、およびそれらの特性はその地域内の不動産の利用形態と価格形成について全般的にどのような影響力を持っているかを分析し、判定することを「地域分析」といいます。
(1)近隣地域の範囲の判定
(2)地域要因
(3)近隣地域の相対的位置の把握
(4)市場の特性
(5)標準的使用
(6)借地権取引の態様
・対象不動産の状況
(1)土地に関する個別的要因
(2)建物に関する個別的要因
(3)その他の個別的要因
・最有効使用の判定
・鑑定評価方式の適用
・試算価格の調整
(1)各試算価格の再吟味
(2)各試算価格が有する説得力に係る判断